電波とは
電波とは何か
電波は,電磁波の中で無線通信に使われている部分のことです.電磁波という名前の通り電界(電場)と磁界(磁場)の2つの成分からなる横波です.一般に,波とは振動が伝わっていく現象をいいます.電磁波の場合は,電場と磁場が交互に振動しながら波として空間を伝わります.放射源から十分遠方では,電磁波の進行方向に対して垂直な面内に電場と磁場が振動している横波になっています.
電磁波はマクスウェルによって1871年に予言され,ヘルツによってその存在が1888年に確かめられました.マクスウェルがまとめたマクスウェル方程式によると電磁波が真空中を伝わる速さはおよそ秒速30万kmです.これは光の速さと同じなので,光は電磁波の一種であるとマクスウェルは考えました.
電磁波はその周波数によって分類されています.周波数とは1秒間に波がどれだけ振動するかを表しており,Hz(ヘルツ)という単位を用います.周波数の低い方から,電波,赤外線,可視光線,紫外線,X線,γ線と呼ばれています.このうち電波と呼ばれている部分をまとめると以下のようになります.
呼称 | 周波数 | 波長 | 使用目的 |
---|---|---|---|
超長波(VLF) | ~30kHz | 10km~ | 潜水艦通信 |
長波(LF) | 30kHz~300kHz | 1km~10km | 潜水艦通信,方向探知,一部の放送 |
中波(MF) | 300kHz~3MHz | 100m~1km | 国内向けAM放送 |
短波(HF) | 3MHz~30MHz | 10m~100m | 海外向け放送 |
超短波(VHF) | 30MHz~300MHz | 1m~10m | FM放送 |
極超短波(UHF) | 300MHz~3GHz | 10cm~1m | テレビ放送,携帯電話,レーダー |
マイクロ波(SHF) | 3GHz~ | ~10cm | 携帯電話,衛星放送,レーダー |
参考:マクスウェル方程式
マクスウェル方程式は電磁気学の4つの法則を数式として表したものです.
\begin{align} & \text{電場のガウスの法則} & \boldsymbol{\nabla} \cdot \boldsymbol{D} &= \rho \\ & \text{磁場のガウスの法則} & \boldsymbol{\nabla} \cdot \boldsymbol{B} &= 0 \\ & \text{電磁誘導の法則} & \boldsymbol{\nabla} \times \boldsymbol{E} &= – \frac{ \partial \boldsymbol{B}}{\partial t} \\ & \text{マクスウェル・アンペールの法則} & \boldsymbol{\nabla} \times \boldsymbol{H} &= \boldsymbol{i} + \frac{ \partial \boldsymbol{D}}{\partial t} \end{align}
ここで,電場 \(\boldsymbol{E}, \boldsymbol{D}\),磁場 \(\boldsymbol{H}, \boldsymbol{B}\),電荷密度 \(\boldsymbol{i}\),電流密度 \(\rho\) を示します.それぞれの法則の意味は次の通りです.
- 電場のガウスの法則:電荷が電場をつくる.電荷は正負が独立に存在する.
- 磁場のガウスの法則:磁力線は始点と終点がない=磁荷は存在しない.
- 電磁誘導の法則:磁場が時間変化するとき電場が伴う.
- マクスウェル・アンペールの法則:電流あるいは電場が時間変化するとき磁場を伴う.
電波の反射
電磁波は導体表面で反射するという性質を持っています.これは電磁波が導体の内部に侵入できないことを意味しています.導体のこのような性質を静電遮蔽といいます.
これから鉄筋コンクリートで作られた建物の内部ではAMラジオが聞きにくい理由が分かると思います.電磁波を侵入させたくないときはこの性質を利用すればよいわけです.電磁波の反射を考えると後述する電離層の存在による影響がわかります.
電磁波の偏波
電磁波とは電場と磁場が振動している横波であるといいました.この電場の振動している方向を地面を基準にして垂直偏波,水平偏波,円偏波などと分類しています.垂直偏波とは電場の振動方向が地面に対して垂直ということです.このような偏波の方向によってアンテナの指向性を考えることが必要になります. 中波の放送は送信アンテナの性質から垂直偏波です.
電磁波の伝播
どうして夜になると遠くの中波放送局が聞こえるようになるのでしょうか?このことを理解するには電磁波がどのように伝わるかを考える必要があります.
電離層の存在
地球の上空100km-300km程度のところには,太陽からのX線などによって原子が電離しイオン化した状態の電離層があります.この電離層は幾つかの層からなっており,下からD層,E層,F層と呼ばれています.D層は太陽の影響を受ける昼間のみ存在し夜間は消滅しますが,E層,F層は昼夜間を問わず存在します.これは電離層が太陽の働きによってできているからです. 季節によっても電離層の状態は変化します.このため,中波ラジオの受信状態の変化には,1日の中での時間による変化と季節による変化に分けられます.
電離層と電波の反射・吸収
電離層は電波に対して網の目のような働きをします.D層は網の目が大きく,E,F層となるに従い網の目が細かくなります.「網の目」といっているのは「電離している電子の密度」ですが,このように考えるとわかりやすいと思います.
中波の電波は波長が長いため,D層の網の目を通り抜けるときに弱められてしまいます.一方,E,F層では網の目を通り抜けられずに反射します.D層がある限り,中波の電波は弱められてしまい電離層反射は起きません.電波は基本的に直進するので地平線の向こう側には電波が飛んでいきません.このため,D層が存在する昼間に中波の電波は遠くに飛んでいきません.
ところが,太陽の影響がなくなる夜間はD層が消滅し,中波の電波はE,F層で反射され,地平線の向こう側,つまり遠方へ到達できるようになります.これが夜になると遠くの中波放送が聞こえる理由です.
これに対し短波は波長が短いのでD層の網の目を通り抜けることができ,それよりも上空にあるE層,F層で反射されます.短波の電波は電離層反射と地表での反射を繰り返しながら非常に遠方まで到達します.
VHF,UHFの電波は波長が短く電離層の網の目を全て通り抜けてしまいます.電離層で反射しないので電波は直進してしまい地平線の向こうには伝わりません.つまり,見渡せる範囲内にしか電波は伝わらない事になります.この見渡せる範囲の事を見通し距離といいます.このため,テレビやFMのアンテナはなるべく高くすることが必要で,テレビ局が各地方毎に必要なのも電波の到達距離が短いからです.
放送局のアンテナから直接飛んでくる電波を地表波といいます.それに対し電離層で反射してくる電波を空間波といいます.よって,中波は昼間は地表波のみ,夜は地表波と空間波の両方が伝わってくることになります.また,短波はほとんど空間波のみ,VHF,UHFは地表波のみが伝わってくる事になります.
季節が冬になると太陽からの光も弱くなり電離層の網の目が広くなります.電離層の高さも上がるため,より遠くまで中波の電波が届くようになります.このため,冬の方が遠距離受信には向いています.しかし,混信も増えるため必ずしも聞きやすくなるわけではありません.
大地の影響
一般的に地面というのは電気がよく流れます.つまり,大地は導体であり,大地による電磁波の反射も無視できません.
電磁波は電離層と大地との間で反射を繰り返しより遠くへ到達します.大地の影響によってアンテナの指向性も変化します.これをうまく利用することでアンテナの効率を上げることも可能です.
大地の伝導率が悪い場所では電磁波の減衰が激しいので電磁波は弱くなります.一般に,伝導率は乾燥しているところでは悪くなるので内陸部は伝導率が悪くなります.これに対し,海や川の近くでは伝導率は高くなります.
また,電磁波は波ですから波の性質である回折を起こします.回折とは,波が物体の背後に回り込む現象です.これは波長が長くなる(つまり周波数が低い)と特に顕著になります.つまり,周波数の低い電波は大地の丸みに沿って伝わりやすく,周波数の高い電波は直進しやすいということです.これから,昼間は周波数の低い放送の方が遠くへ伝わりやすくなります.
山や建物なども電波をさえぎります.FM,TV(つまりVHF)の電波は波長が短いので,ちょっと大きな建物などがあると邪魔されてしまいます.これに対して中波や短波の電波は波長が長いので,普通の建物の背後にも回り込むことができます.
- 長波(LF)はD層で反射し回折が著しいので地表の丸みに沿って伝わる.
- 中波(MF)は昼間は D層に吸収され減衰してしまうが,夜間はD層が消滅するので E,F 層で反射され遠方に伝わる.
- 短波(HF)は常にD層を通り抜けE,F層で反射されるが,昼と夜では電離層の状態が異なるので伝わり方が変わる.
- VHF,UHFは電離層を通り抜け反射しないので遠方には伝わらない. 基本的に見渡し距離内しか伝わらない.
フェージング
夜に遠くの中波ラジオを聞いていると音が大きくなったり小さくなったりします.このような現象をフェージングといいます.短波放送では一日中フェージングがあって当たり前です.
このフェージングが起きる原因としては,以下のようなものがあります.
- 幾つかの経路を通ってきた波が干渉するもの.
- 電離層そのものが時間的に変動することによるもの.
- 電磁波の偏波面の変化によるもの.
フェージングを軽減するには,同期検波回路や,ダイバーシティなどが効果的です.
ダイバーシティには,周波数ダイバーシティ,空間ダイバーシティ,偏波ダイバーシティなどがあります. 周波数ダイバーシティは,短波でよく使われる方法で,複数の周波数を使って同じ放送を送信して受信状態の良いものを選択して利用する方法です. 空間ダイバーシティは,空間的に離れたアンテナを複数用意して受信状態の良いものを利用する方法です. 偏波ダイバーシティは,偏波面の変化があっても一定信号を受信できるアンテナを利用する方法です.
電波に音声をのせる方法
どうやって電波に音声をのせるのでしょうか? 電波に信号をのせることを変調といいます. 逆に電波から信号を取り出すことを復調(検波)といいます. ここではそれを簡単に説明します.
AM(振幅変調)
AMとは Amplitude Moduration の略で振幅変調と訳されます. 音声信号に合わせて電波の振幅を変化させることで音声が電波の上にのります. 音声信号を電波にのせる方法としては,もっとも基本的で簡単な方法で昔から使われています.
周波数の成分を見ると,中心に搬送波,その両側に対称に音声信号(側帯波:SBという)があります. 搬送波とは音声信号をのせる元の電波のことです. だから,ラジオ放送局の周波数というのは搬送波の周波数のことです. 図を見ると隣に放送局があると混信する理由が分かると思います.
利点としては,信号を作るのが簡単,復調がしやすい. 欠点としては,雑音を拾いやすい,混信しやすい.
数式で表したAM信号
搬送波:周波数 \(F\)、振幅 \(A\)
\begin{equation} A \sin(2 \pi F t) \label{eq:carrier} \end{equation}
音声信号:周波数 \(f \ll F \)
\begin{equation} \sin( 2 \pi f t) \label{eq:audio} \end{equation}
搬送波を音声信号で振幅変調:変調度 \(m < 1\)
\begin{equation} \begin{aligned} & A ( 1 + m \sin(2 \pi f t) ) \sin(2 \pi F t) \\ = & A \sin(2 \pi F t) + \frac{Am}{2} \left\{ \sin(2 \pi (F+f) t) + \sin(2 \pi (F-f) t) \right\} \end{aligned} \label{eq:AM} \end{equation}
\(\eqref{eq:AM}\)式から,AM信号は,搬送波 \(F\),上側帯波(USB) \(F+f\),下側帯波(LSB) \(F-f\) の3つが含まれていることがわかります.
FM(周波数変調)
FMとは Frequency Moduration の略で周波数変調と訳されます. 音声信号に合わせて電波の周波数を変化させることで音声が電波にのります.
利点としては,雑音に強い,混信しにくい. 欠点としては,帯域が広くなってしまうので高い周波数でしか使えない.
数式で表したFM信号
搬送波と音声信号は,\(\eqref{eq:carrier}\),\(\eqref{eq:audio}\)式と同じとします.
\begin{equation} \begin{aligned} & A \sin( 2 \pi F t + m \sin (2 \pi f t) ) \\ = & A \{ \sin(2 \pi F t) \cos( m \sin(2 \pi f t)) + \cos(2 \pi F t) \sin( m \sin(2 \pi f t)) \} \\ = & A \sum_{n=-\infty}^{n=\infty} J_n(m) \sin(2 \pi ( F + n f ) t ) \end{aligned} \end{equation}
ここで,\(n\) は整数,\(J_n\) は \(n\) 次のベッセル関数で,
\begin{gather} \cos(m \sin( 2 \pi f t) ) = \sum_{n=-\infty}^{n=\infty} J_n(m) \cos(2 \pi n f t) \\ \sin(m \sin( 2 \pi f t) ) = \sum_{n=-\infty}^{n=\infty} J_n(m) \sin(2 \pi n f t) \end{gather}
となることを利用しています.周波数を見ると \(F+nf\) となっており,搬送波の周波数 \(F\) の周りに,音声信号の周波数 \(f\) の整数倍で分布しており,非常に広帯域であることがわかります.
アンテナの動作原理
バーアンテナ
普通のラジオに内蔵されているアンテナ. 磁性体のフェライトの周囲に導線をぐるぐると巻いたもので要するにコイルです. 磁性体はコイルの性能を高める働きをします.
コイルのそばで磁石を動かすとコイルには電流が流れます. これがファラデーの電磁誘導の法則で,磁石の動きに対応するのが電磁波の時間変化です. つまり,電波の変化に応じた電流がコイルに流れます.
このアンテナは指向性を持っています. これは磁力線がコイルを一番多く通り抜ける方向があるからで,ラジオの向きを変えると受信状態が変化します. これを利用し混信してくる放送局を排除することができます. アンテナの指向性としては8の字(\(\cos \theta\))になります.
コイルとコンデンサーを組み合わせると共振回路を構成でき,希望の周波数を拾い出すことができます. 基本的にループアンテナと全く同じなので動作原理はループアンテナのところを参照.
微小ループアンテナ
バーアンテナを大きくしたものと考えられます(明確な区別があるわけではない). 微小の意味は波長(中波の場合はおよそ300m程度)と比べて十分小さいということです. 指向性は8の字(\(\cos\theta\))です. コイルの断面積が大きいと磁場に対する効率がいいので,大型のループアンテナの方がラジオに内蔵されているバーアンテナよりも性能がよくなります.
これもコンデンサーを接続し共振回路として用います. ループアンテナを有効に使うには,混信してくる放送局を感度最小になるようにすることです. 聞きたい放送局に感度最大を向ける必要はありません.
ループアンテナの断面積 \(S\),巻数 \(N\),電磁波の磁場 \(B\) ,電磁波の到来方向をループアンテナ面から \(\theta\) の角度とすると,ループアンテナを通り抜ける磁束 \(\Phi = NBS \cos\theta \) となります.磁場が \(B=B_0 \cos(2 \pi f t)\) と時間変化しているときのループアンテナの起電力 \(V\)は,電磁誘導の法則から,\(V = -\dfrac{d \Phi}{dt} = 2 \pi N B_0 S f \sin(2 \pi f t) \cos\theta \) と与えられます.さらに,電場と磁場には \(E = c B \) の関係があるので,\(V = \dfrac{2 \pi f}{c} N S \cos\theta E_0 \sin(2 \pi f t) = \dfrac{2 \pi}{\lambda} NS \cos\theta E_0 \sin(2 \pi f t), \; (\lambda:\text{波長}) \) と表され,ループアンテナの実行高 \(h\) は \(h = \dfrac{2 \pi}{\lambda} NS \) となります.
ビバレージアンテナ
進行波アンテナの代表的なもの. 放送局の方向に向けて1波長以上(中波では300m程度)にわたって導線を張り,終端に電磁波の反射を防ぐ抵抗を接続してあるアンテナです. 電磁波によって流れる電流を導線の各部分で集め,抵抗によって電磁波の反射を防ぐことで鋭い単一指向性を持たせています. 中波ではその大きさから実際に作ることは困難でしょう. 大地の伝導率が悪いほど効率がよくなりますが,一般に効率がよくないアンテナなので送信に用いられることはなく受信のみに用いられます.
ビバレージアンテナの指向性はアンテナの各部分に発生する電圧を積分すると得られます.\( k = 2 \pi/\lambda \):波数, \(\lambda\):電波の波長, \( L\):アンテナの長さ, \( \theta \):アンテナと電波の到来方向のなす角度とすると,指向性 \( D(\theta) = |\cos\theta| \dfrac{\sin( kL(1 – \cos\theta) / 2 )}{ kL(1 – \cos\theta) / 2} \) となります.
ダイポールアンテナ
ダイポールアンテナとしては1/2波長のものが用いられることが多いです. これは1/2波長のとき共振し効率がいいからです. 複数組み合わせると指向性と利得が向上します. これは八木アンテナ(テレビアンテナに使われている)として知られています.
1/2波長のダイポールアンテナの指向性はアンテナの各部分から発生する電場を積分すると得られる.\( \theta\) をアンテナと電波の到来方向のなす角度とすると,\( D(\theta) = \cos( \pi \sin\theta / 2 ) / \cos\theta \) となり,ややつぶれた円形となる.
中波送信アンテナ
中波送信アンテナは基本的にはダイポールアンテナです. 中波の場合,1/2波長といっても100m程度になるので,大地に垂直にアンテナを設置して鏡像を作り,1/4波長のアンテナとすることが普通です. このことから,一般に中波の放送は垂直偏波であり無指向性であることがわかります.
Eweアンテナ
進行波ループアンテナの代表的なものと考えられます. 最近アマチュア無線の世界で受信用のアンテナとして注目を集めているアンテナです.
小型(波長の1/10以下)のアンテナながら単一の指向性(カージオイドという図形)を持っています. わずかに発生する電磁波の位相の差を用いて単一の指向性を得ていること,終端抵抗により電力が消費される事から効率はよくはありません. これも終端抵抗により電磁波の反射を抑えていることが単一の指向性を持つ原因です.
このアンテナを使えば文化放送に混信してくる韓国のKBS社会教育放送を除去できるかもしれません. ただし,小型といっても中波で実用になるには10m近い大きさが必要そうです.
Eweアンテナの指向性は2本の垂直部からの放射の位相差を考える. \(k = 2\pi/\lambda\):波数,\(\lambda\):電波の波長,\(L\):アンテナの長さ,\(\theta\):アンテナと電波の到来方向のなす角度とすると,指向性 \(D(\theta) = \sin( k L (1 + \cos\theta) / 2 ) \simeq k L (1 + \cos\theta) / 2\) となる. ここで波長に比べてアンテナが小さいことを用いた.これはカージオイドという図形になる.
EWEアンテナをもっと小さくしたK9AYというアンテナがあります. 動作原理は同じだと思いますが,大きさはずっと小さくなります. といっても中波で実用になるには大きそうですが.
コイルとコンデンサー
ループアンテナなどを理解するときにコイルとコンデンサーの働きを知っていることが重要です.
コイル
コイルは導線をぐるぐると巻いたものです. これは電磁石になることからもわかるように磁場に関係します. 交流回路においては電流の変化を妨げる働きをします. コイルを特徴づける量としてインダクタンスがあります. コイルに直流電流を流したときに磁力線が何本できるかを表すのがインダクタンスです. 単位はヘンリー(H)を使います.
円形コイル(ソレノイド)のインダクタンス L は次のように表されます.
\begin{equation} L = \frac{K \mu N^2 S}{d} \end{equation}
ここで,\(K\):長岡係数,\(\mu\):透磁率,\(N\):コイルの巻数,\(S\):コイルの断面積,\(d\):コイルの軸方向の長さ. \(K\) はコイルの直径とコイルの長さで決まる. これから,インダクタンスはコイルの巻数 \(N\) の2乗と断面積 \(S\) に比例し,コイルの軸方向の長さ \(d\) に反比例します.
コンデンサー
コンデンサーは2枚の導体板を向かい合わせておいたもので電気をためる働きがあります.コンデンサーを特徴づける量として電気容量があります.電気容量はコンデンサーにどれだけの電気をためられるかを表します.電気容量は導体板の面積に比例し,導体板の間隔に反比例します. 単位はファラド(F)を使います.特に電気容量を変えられるようにしたコンデンサーをバリアブルコンデンサー (バリコン)といいます.通常は,導体板の向き合った面積を変えることで電気容量を変えています.
共振回路
コイルとコンデンサーを組み合わせることで共振回路を作ることができます. 共振というのは,外部から加えられる振動の周波数と物体の持っている固有の周波数が一致すると物体の振動が激しくなる現象です. 共振を用いることで,たくさんの周波数の中から特定の周波数だけを選び出せます. 中波ラジオのアンテナというのは共振回路なのです.
電気容量 \(C\) のコンデンサーとインダクタンス \(L\) のコイルを組み合わせたときの共振周波数 \(f_0\) は次の式で与えられます.
\begin{equation} f_0 = \frac{1}{2π \sqrt{ L C }} \end{equation}
中波ラジオ用のバーアンテナのインダクタンスはおよそ300μHであるので,最低周波数の500kHz程度を共振できるようにするためには,バリコンの容量は最大300pF程度あればよいことがわかります.
ここで,\(\text{p}=10^{-12},\mu=10^{-6}\)を表します.
共振回路の質 “Q”
共振回路の共振の鋭さをあらわす量として \(Q\) (Quality factor)があります. \(Q\) は共振周波数の周りの帯域幅(電力が半分になる範囲)を与える量です.
直列共振回路の \(Q\) は次のような式であらわせます.
\begin{equation} Q = \frac{f_0}{\Delta f} = \frac{2 \pi f_0 L}{R} = \frac{1}{ 2 \pi f_0 C R} = \frac{1}{R}\sqrt{\frac{L}{C}} \end{equation}
ここで,\(f_0\) は共振周波数,\(\Delta f\) は共振周波数の周りの帯域幅,コイルのインダクタンス \(L\),コンデンサーの容量 \(C\),共振回路の電気抵抗 \(R\) です.
この関係式から \(Q\) を大きくするためには,電気抵抗と容量を小さくし,インダクタンスを大きくすればよいことが分かります.
中波受信用のバーアンテナの \(Q\) は100~300程度はあるので,帯域幅は10kHz程度になります.
ラジオの動作原理
ラジオの動作原理も知っておくといろいろと役に立ちます. ここではAMラジオのしくみについて簡単に説明します.
もっとも基本的なラジオの回路
ラジオで最も簡単なものは鉱石ラジオです. 鉱石ラジオの仕組みがわかれば,もっと複雑なラジオの仕組みも分かります. 鉱石ラジオの回路構成は次のようになっています.
アンテナ→同調回路→検波回路
鉱石ラジオはアンテナを長く張ってアースを取れば電源がいりません. この鉱石ラジオに増幅回路を組みあわせることで立派なラジオになります.
- アンテナ
- アンテナは到来する電波をとらえ高周波電流に変えます.
- 同調回路
- 同調回路は様々な周波数の電波の中から自分の希望する周波数の電波を選び出す働きをします. コイルとコンデンサーによる共振回路によって構成されます.
- 検波回路
- 高周波電流を低周波電流に変えることで音声の周波数を取り出します. これはダイオード,コンデンサー,抵抗を用いて構成されています. ダイオードは電流の片方の成分をカットします. 上下には同じ信号が含まれているのでそのままでは打ち消しあってしまいます. これを防ぐのがダイオードです. コンデンサーはとびとびの電流の隙間を埋め連続的なものに変えます. コンデンサーと抵抗を組み合わせた回路はローパスフィルターと考えることもできます.
スーパーヘテロダインラジオ
次に高性能なラジオとして一般的なスーパーヘテロダイン方式について説明します. スーパーヘテロダイン方式のラジオは混信に強く増幅が繰り返しできるので感度がいいという特徴があります. 次のような流れで音声信号を取り出します.
発振回路(もとよりも455kHzだけ高い周波数を発生) ↑ ↓ アンテナ→同調回路→高周波増幅→周波数変換 ↓ 低周波増幅←検波←中間周波増幅←フィルター
- 増幅回路
- 弱い電流を増幅します.
- 発振回路
- 同調回路と連動し聞きたい放送局の周波数よりも455kHz(450kHzのこともある)だけ高い高周波電流を発生させます.
- 周波数変換
- 放送局からの信号と発振回路の信号を合成し,うなりを発生させます. このうなりは455kHzになるので元よりも低い周波数にすることができます. この455kHzの信号はラジオの周波数と音声の周波数の中間にあるので中間周波数とよばれています. これによって隣の放送局との分離度を上げ増幅がやりやすくなります.
- 分離度があがる理由を考えてみましょう.1000kHzと1010kHzの信号があったとします. この周波数の分離度は \((1010 – 1000)/1000 = 0.01\) です. これらの信号に900kHzの信号を混合したとしましょう. すると,\(1010\text{kHz} – 900\text{kHz} = 110\text{kHz},1000\text{kHz} – 900\text{kHz} = 100\text{kHz}\) に変換されます. この時の分離度は \((110 – 100)/100 = 0.1\) となり,元の分離度と比べて10倍に向上します. このような方法をヘテロダイン検波といいます. スーパーヘテロダインは変換される周波数を常に一定(普通は455kHz)にすることが特徴です. また,周波数を一定とする事で増幅回路の設計もしやすくなります. ただし,欠点もありイメージ混信という現象を引き起こす事もあります.
- フィルター
- 455kHzを中心としてある範囲の周波数を通過させ,それ以外の余分な周波数をカットします. これによって混信を少なくできます.スーパーヘテロダインでは変換される周波数が一定なのでこのような方法ができるのです.このように周波数を変換することで混信を減らすことができ,弱い信号を繰り返し増幅することができます. 市販のラジオでいい物になると周波数変換を2度,3度繰り返してイメージ混信の解消を図っています.
AMステレオの原理
ここではAMステレオの原理を紹介します. 中波でのAMステレオ放送が満たさなければならない条件は次の2つです.2022年現在,AMステレオ放送を行っている放送局は減少しています.
- 中波でのAMは帯域が狭いので,その範囲で信号を送れるものであること.隣の放送局との間隔は9kHzしかないので,帯域幅は±7.5kHzと決められている.
- 従来のラジオではモノラルとして問題なく聞こえること.
AMステレオの方法
AMステレオには5つの方法があります.ここでは代表的な2つについて説明します.位相多重方式(モトローラ方式)
現在世界の標準的な方式となっています.日本のAMステレオもモトローラ方式です. 従来のAM方式に位相変調を組み合わせることでステレオを実現しています.周波数多重方式(カーン方式)
アメリカなどで使われている方式です. 通常のAM信号には左右対称の側帯波がありますが,それを左右非対称にすることで右と左の信号を乗せる方法です.
モトローラ方式の原理
左右の信号を電波にそのまま乗せるというのは現実的ではありません. 左右の信号をそのまま乗せようとすると帯域が広がってしまうからです. 次のように左右の信号を和信号と差信号に変換してから電波を変調します.
左の信号:L 和信号:L+R →振幅変調(AM) → → AMステレオ変調波 右の信号:R 差信号:L−R →位相変調(PM)
位相変調というのはFMによく似た方法で,振幅ではなく波長(周波数)を変えるように働きます. 上のようにすることで,左右の和信号を用いて振幅変調をすることができ,従来のラジオでは左右の合成された音が聞こえるようになります. この方式のみそは左右の差信号を用いて位相変調をするということです. これは左右の信号はほとんど打ち消しあってしまうので,変調をしても位相(周波数)を大きく変えることはなく,結果として帯域が狭くても大丈夫ということになるからです.
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